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最高裁判所第一小法廷 昭和43年(あ)816号 判決 1968年11月21日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人中本興益の負担とする。

理由

被告人中本興益の弁護人久保恭孝の上告趣意第一点は、憲法三一条違反をいうが、実質は単なる法令違反の主張であり、同第二点は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

被告人泉井正純、同栗田博志の弁護人青木英五郎の上告趣意中判例違反をいう点について。

記録によると、被告人泉井、同栗田に対する公訴事実の要旨は、

被告人両名は共謀のうえ

一、昭和四〇年四月一六日兵庫県西宮港岸壁において、森田真次らが他から窃取してきたガソリン約一二キロリットルを、その情を知りながら、松本重一から代金四二万円で買い受け、もって賍物の故買をし、

二、同月一九日右同所において、森田真次らが他から窃取してきたガソリン約六キロリットルを、その情を知りながら、松本重一から代金二一万円で買い受け、もって賍物の故買をした、

というものである。

これについて、第一審判決は、右被告人両名が意思相通じて公訴事実の日時場所において森田真次らが他から窃取してきたガソリンをそれぞれ買い受けたことは証拠によって認められる、ただ、右被告人両名は、右一の日には五・七キロリットル、二の日にはむしろ一二キロリットルを各買い受けた旨供述するが、右供述はにわかに信用できないから、その買い受けた量が公訴事実どおり一が約一二キロリットル、二が約六キロリットルであると認めることには、いささか躊躇を感ぜざるをえないが、いずれにせよ、それぞれ少なくとも約六キロリットルを買い受けたことは明らかであると説示し、結局被告人両名が、これら買い受けたガソリンが盗品であるとの認識すなわち賍物性の知情をもっていたことについて証明が十分でないことを理由に無罪を言い渡したもので、本件において争点の核心をなすものは、被告人らが賍物性についてその情を知っていたか否かである。

これに対し検察官から控訴の申立があり、原審は、みずから事実の取調として、検察官が知情の立証として申請した証拠物の売上帳二葉を取り調べ、更に被告人両名に対し公判廷で主として知情の点につき詳細にわたって質問したことが記録上明らかである。

このように、本件の核心をなす知情の点について事実の取調をした以上、原審が、前記数量の点も含めて公訴事実どおりの事実を確定し、有罪の判決をしたことは、所論引用の判例になんら違反するものではない(昭和三一年(あ)第四四七八号同三四年五月二二日第二小法廷判決、刑集一三巻五号七七三頁、同三四年(あ)第四七〇号同三六年一月一三日第二小法廷判決、刑集一五巻一号一一三頁各参照)。それゆえ所論は理由がない。

同弁護人の上告趣意中その余の論旨は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よって、同法四〇八条、一八一条一項本文(被告人中本興益につき)により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎)

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